2024.11.07 【特集/レポート1】出演者たちの本読みが心に響いた稽古初日
現代社会に深く切り込むマクミラン作品の真髄を味わえる予感
日本でも上演が重ねられているダンカン・マクミラン作品*。イギリスを代表する劇作家となったマクミランが英国演劇界で頭角を現すきっかけとなったのが、この『モンスター』だ。社会が直面している問題に深く切り込むことで知られるマクミラン作品、本作では問題児として扱われる14歳の少年と、自身も問題を抱える研修中の教師との対峙を中心に描かれる。2005年に執筆、コンペティションの入賞や演劇賞のノミネートを経て、2007年に英国マンチェスターのロイヤル・エクスチェンジ・シアターで初演、「ダンカン・マクミランの素晴らしい戯曲は、子育てと責任、そしてティーンエイジャーが大人のサポートと保護を必要とする存在ではなく、厄介な問題として見られるようになる瞬間をタイムリーかつ魅力的に分析している」と『ガーディアン』で評された。満を持しての日本初演、翻訳はマクミランと交流のある髙田曜子が『LUNGS』に続いて手がけ、演出と美術はあらゆる戯曲をポップかつダイナミックに立ち上げる杉原邦生が担う。
10月中旬、稽古初日。まずは本読みが行われた。稽古に入る前、「人間の表裏一体な部分が、多くの人の心を打つ作品になるんじゃないかな」と語っていた教師トム役の風間俊介は、落ち着いたトーンで読みながら、時おり台本に何かを書き留めている。小さな発見も逃さない、という作品に対して真摯に向き合う姿勢がうかがえる。「自分の正しさは誰かの憎しみや悲しみでもある、という物語。単純に白黒で断定できるお話ではない」と話していた生徒ダリル役の松岡広大は、今にも立ち上がりそうなほど身振り手振りを交えている。その松岡のテンションにあわせるように風間の表情が変化、二人の会話が徐々に豊かになっていく。作品が立ち上がらんとする貴重な瞬間だ。
「登場人物それぞれに何か歪なものを抱えているけれど、それは人間にとっては自然なことなのでは、とすら思える」と話す笠松はるは、トムの妻ジョディを演じる。涼やかな声で感情を繊細に表現、妻の不安が伝わってくる。「緊迫した濃密な作品で、展開がとてもスリリング。リアルな会話で、感情が濃密に高まっていく」と語っていた那須佐代子が演じるのは、ダリルの祖母リタ。第一声から情景を見事に浮かび上がらせ、リタの複雑な心情が現れる。4人それぞれ耳心地の良い声で、口跡鮮やか。まだ本読みだというのに作品の世界に引き込まれ、心に響いた。
マクミランと大学時代から交流を深めている世界的なジャズミュージシャンのジェイミー・カラムは、彼の戯曲について「遠く離れたダークな事柄について書くことができ、厄介で複雑な登場人物の頭の中に入り込むことができる」とインタビュー(『インディペンデント』2009年11月1日)で答えている。『モンスター』にも、その言葉が当てはまる。「原口沙輔さんの音楽によって各シーンの空間を伝えたい。また、空間全体が生き物のようにも見える美術に」という杉原のプランを聞き、さらに期待感が増した。マクミラン作品の真髄を味わえる観劇体験になりそうだ。
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文 金田明子