2024.11.29 『モンスター』作者 ダンカン・マクミランのインタビュー公開!
Interview
戯曲は観客と俳優、その間に存在するもの。
ダンカン・マクミラン
戯曲は観客と俳優、その間に存在するもの。
ダンカン・マクミラン
―まずは、この『モンスター』を書いたきっかけを教えていただけますか?
私の両親は共に教師で、私自身も一時期教える仕事に携わっていました。『モンスター』を執筆する際、学生としての経験と教師としての経験の両方を活かして、さらに他の多くの人たちの経験も反映させました。観客を教室という空間に入れて、それを体験してもらうことに価値があると感じていました。当時、特にティーンエイジャー、とくに少年たちがメディアで悪者扱いされ、教師たちも当然受けて然るべき敬意を払われることが少なかった。私にとって、演劇とは「共感」です。自分とは全く違う人生を送る登場人物たちの姿を見て、彼らに共感したり思いを寄せたり、もしくは少なくともその人たちを今までより少しだけ理解したりするのです。
―ご自身の戯曲が翻訳され、日本で上演されることについてどう感じますか?
自分の戯曲が世界中で上演されることをとても嬉しく思っています。日本の観客の皆様がそこに共感できる何かを見つけてもらえることを心から願っています。
―ダンカンさんの戯曲のフォームやスタイルについて教えてください。
ダンカンさんの戯曲の書き方、つまりページ上に見られるフォームにとても興味があります。特に、句読点の使い方(コンマを使ったポーズや、文が未完で終わること)が印象的でした。なぜそのように戯曲を書くことにしたのでしょうか? ダンカンさんが影響を受けたものがありますか?
マーティン・クリンプが、彼の書く戯曲の中でコンマを音楽的な休符として使う方法が好きでした。対話にはリズムがとても重要で、私はその点に非常にこだわりがあります。私は俳優の皆さんを敬愛していて、台本がページ上でどのように見えているかによって、それがどんなシーンなのかすぐに掴んでもらえるようにしたいと思っています。つまり、もしテキストが多ければ、そのシーンは台詞によって前へ前へと動かされていくシーン、もしページに白い余白が多ければ、そのシーンは静寂・沈黙が多くなるだろうと。それは、登場人物が何を言うべきか悩んでいる、あるいは彼らが望むものを手に入れるために何かを言うのを戦略的に抑えているということかもしれません。キャリル・チャーチルが台詞の重なりを示すために使うスラッシュ記号(/)も好きです。私は、人々が何を言うかだけでなく、それと同じくらいどう話すか、にも興味があります。どのように言葉を使っているか、いかに考えていることをそのまま声に出し、時にそれを自分で訂正するのか。演劇の登場人物たちは、現実の人々よりもはるかに雄弁、雄弁すぎるように思うことがよくあります。表現豊かに、きれいな引用を使い、自分たちの言いたいことを完璧に力強く言葉で表現します。でも私がより関心を持っているのは、真実の言葉のやりとりです。同じ言葉を何度も使ったり繰り返したり、自分自身で言葉を遮ったり、文を途中で終わらせてしまうことから、その登場人物の姿が明らかになります。これがうまくいくと、観客にとっては非常に引き込まれ、感動的で、時にはファニーなものになると思うのです。
―ダンカンさんが、戯曲を書く上で大切にしていることは何ですか?
私は戯曲を書くときは、観客のこと、それから俳優のことを考えます。戯曲はその二者の間で生きるものだからです。私は俳優たちが大好きで敬愛しているので、だからこそ俳優が挑戦できる、そのスキルを存分に使ってもらえるような役を書きたいと思っています。戯曲というのは俳優のためのマシンです。作家としての自分の仕事の大部分は、私が思うに、観客の感情を導くことだと思っています。観客の興味・関心を引き、楽しませ、驚かせ、心を動かすことです。
―戯曲を書くとき、登場人物やテーマはどのように見つけたり発展させたりするのでしょうか?
書くものによってそれぞれ異なります。ですが概して言うと、心を惹かれる登場人物や状況を見つけて、そこからテーマが自然とテーマが浮かび上がってきます。テーマを最初に設定して、それを体現するための登場人物を作り出すというのではなく。『モンスター』では、ダリルはすでにほぼ完成されたかたちで現れましたが、特定の誰かをもとにしているわけではありません。でも私はこの人物のことがすぐにわかりましたし、彼を書くことを私に求めているように感じました。書いていくうちに、自分が何か大きなテーマを書いていることに気がつきました。教育、社会福祉、人種、男性性、暴力、トラウマ、親子関係といったテーマです。でも私は登場人物たちに集中し、テーマは自然に立ち上がってくるのに任せ、執筆を続けました。
―ダンカンさんにとって、戯曲を書くこと。また演劇とは何ですか?
演劇は想像力の共同・集団行為です。私たちは見知らぬ人たちと暗闇の中に一緒に座り、共に共感を育みます。その共同体的な側面がとても重要で、まさに魔法のようなものがそこから生み出されるのです。演劇は私たちに孤独を感じさせなくし、私たちは一緒に笑い、一緒に泣くことができます。そして、とても深いレベルで私たちに語りかけてくる登場人物やアイデアに出会うことができる場なのです。
―もしお答えいただけるなら。今後、どんな作品を書いていきたいと思いますか?
ここ10年は、アイプセン、チェーホフ、オーウェルなどの作品を中心に翻案作業をしてきました。
新しい戯曲もいくつか書いていますが、あまりたくさん話してしまうと、運を逃してしまいそうです(笑)。
翻訳 髙田曜子
ダンカン・マクミラン
Duncan Macmillan
英国を代表する劇作家の一人。その作品はナショナルシアター、ロイヤルコート、アルメイダ、バービカンなどの英国内の劇場のみならず、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、オーストリア、アイスランド、ノルウェーなど世界各国の劇場や演劇祭で上演されている。『1984』で2014年に、『People, Places and Things』で2016年にオリヴィエ賞優秀新作戯曲賞にノミネート。『LUNGS』では、2012年オフウエストエンド賞最優秀新作戯曲賞、英国新作戯曲賞、ヘレンヘイズ賞ノミネートなど、名だたる演劇賞の受賞・ノミネート多数。近年のその他の作品には、『Rosmersholm』(2019年/ウエストエンド)、『City of Glass』(2017年/HOME、リリックハマースミス)、『2071』(2014年/ロイヤルコート、ハンブルグ・シャウシュピールハウス)、『Every Brilliant Thing』(2013年/ペインズ・プラウ、エジンバラフェスティバルなど)など。
Duncan Macmillan
英国を代表する劇作家の一人。その作品はナショナルシアター、ロイヤルコート、アルメイダ、バービカンなどの英国内の劇場のみならず、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、オーストリア、アイスランド、ノルウェーなど世界各国の劇場や演劇祭で上演されている。『1984』で2014年に、『People, Places and Things』で2016年にオリヴィエ賞優秀新作戯曲賞にノミネート。『LUNGS』では、2012年オフウエストエンド賞最優秀新作戯曲賞、英国新作戯曲賞、ヘレンヘイズ賞ノミネートなど、名だたる演劇賞の受賞・ノミネート多数。近年のその他の作品には、『Rosmersholm』(2019年/ウエストエンド)、『City of Glass』(2017年/HOME、リリックハマースミス)、『2071』(2014年/ロイヤルコート、ハンブルグ・シャウシュピールハウス)、『Every Brilliant Thing』(2013年/ペインズ・プラウ、エジンバラフェスティバルなど)など。